Busnet-Forum 基調論文(2001年7月公表)

地域の公共交通の課題と交通まちづくり

東京大学大学院工学系研究科教授 太田 勝敏

1.車依存社会の見直しと公共交通

 現在の交通問題の最大の課題が車依存社会の是正であろう。車依存社会は私たちの日常生活(ライフスタイル)や生産・経済活動が自動車交通をベースにしたものになったことを指す言葉である。自動車は好きな時に好きな場所へ自由に移動できるというモビリティを私たちに与えてくれたという意味で、20世紀の交通の主役となった。1世帯1台以上の車が普及し、運転免許保有可能な年齢の男女のほとんどが免許を持ち運転するようになった現在、大都市を除き車は仕事や買物に欠かせないものとなった。しかし、一方で徒歩や自転車、鉄道やバスといった在来の交通手段は次第に減少し、衰退してきたことから、車を乗れない人、使えない人にとっての交通は著しく困難となってきた。この車が使える人と使えない人の移動性の格差は米国では「交通貧困者」問題などと呼ばれ、1960年代より社会問題となっていたが、公共交通の衰退により、わが国でもこの問題が重要となってきている。

 自動車道路交通の問題は、交通事故、道路渋滞、そして騒音や大気汚染といった交通公害、さらにはCO2排出に伴なう地球温暖化など、一層広範な問題となっている。特に都市においては、ディーゼル排気ガス問題のように沿道の人々の健康問題として早急な対応が必要とされる状況になっている。

 さらに、車の普及により人々は地価の安い郊外に住宅を求め、市街地の拡大、低密度で無秩序な市街地の拡散(スプロール)が進むと共に、バイパスや環状道路周辺へのロードサイド商店や郊外型ショッピングセンターの立地が進んだ。そのため、既存の中心市街地の商店街の衰退が社会問題化してきた。

 このように、車依存社会は現在、事故や渋滞といった単なる交通問題だけでなく、健康・環境問題、モビリティ格差、中心市街地の衰退といったより広い文脈の社会問題としての対応が求められている。すでに国レベルでは環境庁における環境基本計画の見直し、地球温暖化対策、NOX・SPMの総合交通対策の中での「環境負荷の少ない都市交通体系」あるいは運輸政策審議会の「21世紀初頭における総合的な交通政策の基本的方向について」答申(2000年10月19日)での“「クルマ社会」からの脱皮”といった提言においてもその見直しが始まっている。

 このような車依存社会の見直しに当たっての鍵は、代替交通手段であり、とりわけ公共交通手段への転換の可能性にある。従来、バスや鉄道は交通事業者や国が直接的に関わるものとして、市町村では、公共交通を担当する部局が存在しないのが一般的であった。しかし、少子高齢化が進む中で市民の生活のベースとして公共交通の確保を始めとする交通政策が一つの重要な分野となっていくと考えられる。特に、2001年度から始まる路線バス等の規制緩和により非採算路線からのバス事業の撤退が予想されることなど地域の公共交通の枠組みが大きく変わろうとしている。また他方では行政改革と地方分権化の中で、都市計画をはじめまちづくりにおける市町村の権限も強化されてきている。

 このような時代背景の中で、地方自治体はまちづくりの一環として公共交通に正面から取り組む必要がある。以下では、最も身近から地域の公共交通としてのバスを中心に考えてみたい。

2.公共交通の役割

 ここで自動車交通に対する代替交通手段としての公共交通の役割を改めて確認しておこう。その第1は、新交通システム、ライトレールLRT(専用通路を走る改良された新しい路面電車)を含む鉄軌道やバス等の公共交通機関は、その技術的特性から通勤通学交通をはじめ都市のピーク時交通需要に対する大量輸送を担う都市の基幹的交通機関としての役割がある。

 さらに第2は、この輸送効率性が高いことから単位輸送(人キロ)当たりのエネルギー消費量が少なく、また鉄軌道では電力を用いていることから、CO2などの排出ガスが少なく環境性に優れた都市交通手段としての役割である。ここで注意すべき点は、一般にバスはマイカーに比べて人キロ当たりの輸送についてエネルギー消費量が少なく、CO2排出量が少ないとされるが、これは平均的な使用状況での話であり、例えば一般の路線バスで乗車人員が8人以下で走っていれば2人乗車のマイカーの方がCO2の排出量が少ないということである。すなわちバスの環境性は適切な大きさの車両を用いて、ある程度多くの乗客が利用している場合という点である。

 第3は、公共交通はまた、不特定多数の人に交通サービスを提供するという意味で、人々のモビリティ確保という役割がある。

 そして、第4に、都市計画、まちづくりの点からみて、新交通システムや地下鉄などの鉄軌道はその路線や駅が都市の骨格を形成し、長期的に市街地の発展形態や施設の立地を誘導していくことから都市づくりの政策手段としての役割が重要である。また、東京湾ウォーターフロント地区の新交通システム「ゆりかもめ」、ストラスブール(フランス)のライトレールなど、その構造物や車両が都市に新たな個性と魅力を与えている例でみるように都市景観の構成要素、シンボルとしての役割も見逃せない。さらに、まちづくりとの関係では、中心市街地の活性化における公共交通の役割が注目される。

 以下では、特に第3、第4の点について公共交通の役割とその課題をみてみよう。

3.高齢社会でのモビリティ確保

 地方の多くの都市で、公共交通の主役となっているバスは、現在大きな転換期を迎えている。従来の運賃収入による自立採算制の維持が困難となり、来年度に予定されている路線バスの規制緩和で多くのバス路線が廃止される恐れがあるという点である。バスの経営悪化は、マイカーの普及と共に道路渋滞により速度や信頼性が低下し、このサービスの悪化と共に乗客離れが進み、運賃を値上げせざるをえなくなったことから一層乗客が減るといった悪循環に大きな原因がある。運賃の値上げは限界に達し、バスの利用者は生徒や老人ばかりで、もうバスしか他に交通手段がないことから仕方なく我慢して利用しているといった状況の地域が増えている。

 このようなマイカーなど適切な自立的移動手段がない人は、小中学生など年齢により、また、障害や高齢など身体能力により運転免許を持てない人、そして経済的にクルマを所有できない人、また、家には車があっても主人が通勤に使って日中は車が自由に使えない主婦など、車社会の中でもたくさんいることを忘れてはならない。

 公共交通の主要な社会的役割は、これらの車を自由に使えない人々に対するモビリティを確保することである。人口の高齢化が進展する中で、車を自由に使えるか否かでモビリティは大きな格差が生じることから、この公共交通の役割は重要である。注意すべき点は、これからの高齢者はマイカー時代と共に育った世代であることから、他の問題がなければ、高齢者や障害者にこそ一番快適で便利であるマイカーを優先的に利用していただくような安全な車両と道路・駐車場といった環境条件をきちんと整備していくことである。

 それにしても、加齢により運転能力は低下することから、ある時点で車から他の代替交通手段に移っていただく必要がある。徒歩や自転車といった自前の交通手段以外では、公共交通が車の代替手段であるが、現在のバス等は身体的障害・問題がある利用者にとってはとても使えない場合が多い。

 大阪府羽曳野市での市民アンケート調査の例によると、自動車や公共交通手段を利用する場合に身体上の不自由や困難があるとする交通困難者の割合を示したものである(文献1)。興味深いことに、交通困難者は、市民全体で25.0%に達していること、人口の13.6%を占める高齢者では50%弱であること、絶対数ではむしろ高齢者でも障害者でもない、病気やケガといった一時的な障害などによる一般健常者の方が多いことが分かる。このことは、公共交通をバリアフリー化し高齢者、障害者に使いやすくすることは、それ以上の割合でいる可能性がある一般市民の交通困難者にも役立つということを示唆している。

 このデータからも分かるように、高齢者といっても移動上の困難がない元気老人も多い。現在65歳以上の高齢者の内、運転免許を持つ者の割合は全国で3割を超え、地方においては5割を超える地域も増えている。今後のマイカー世代の高齢者も、いずれ車の運転をあきらめざるを得ないが、その時に家族や周りの人に頼らずに自立して移動できる交通手段としての公共交通の存在は重要である。初めて運転免許をとり、車で動き回れるようになった時の感激を思い返すと、高齢で車の運転をやめるときの無念さは創造に難くない。交通政策としては、高齢ドライバーが安全に運転できる道路環境を整備すると同時に、車をやめたときのモビリティのギャップをできるだけ小さくして、自立した移動が選択でき、社会参加が維持できる状況にスムースに移行できる交通条件を整えておくことである。この意味では、バリアフリーで使いやすく、魅力的な公共交通サービスを確保することが大切である。

 このように人生の各ライフ・ステージ毎に、児童・生徒の時から引退して老後を楽しむ高齢期までそれぞれの段階で社会とのかかわりの中で、車だけでない代替的な移動手段として公共交通を社会的に確保しておくという意味でのライフサイクル・モビリティの確保は、車依存社会だからこそ必要な視点といえる。

4.中心市街地活性化における公共交通の役割

 次に、まちづくりにおける公共交通の役割として中心市街地活性化問題との関係をみてみよう。

 都市の中心市街地は、商業・業務機能に加えて、文化、教育、医療・福祉、居住機能といった多様な都市機能が集積した地域社会の要となる空間である。それぞれの地域の先人たちが営々として築きあげてきた地域の社会資本であり、その歴史や文化を象徴する地域の“顔”でもある場合が多い。中心市街地の衰退は、そのような伝統的な地域社会の喪失を意味している。

 都市が発展し、成長して新しい世代が育っていく中で、従来の中心市街地だけでなく、それぞれの時代に相応しい新しい中心地を形成していくことも必要である.しかし、現在現出しつつある郊外のロードサイド店やショッピングセンターが新しい都市社会の核となり、市民の誇りとなるような21世紀の中心地として発展する可能性を秘めた資質を持つ開発と言えるだろうが。そのような戦略的都市づくりの視点を民間資本に期待するのは無理である。それぞれの自治体がまちづくりの長期的都市計画の中で、戦略的に既存中心市街地の再生と必要に応じて新中心地の形成について計画的に推進すべき課題である。

 現在、各地で進む無秩序な郊外商業開発の展開は、全国展開を図る大手流通資本の論理で進められる場合が多く、“焼き畑商業”ともいえる状況がみられる。地元産業との連携も少なく、短期間に利益を上げ、次々と新天地を求めて移っていくといった一部の大手商業者の論理は、地域社会にとって大いに警戒すべき問題である。都市間競争が一層激しくなると予想される中で、商業活動を通した経済的繁栄と豊かさを確保していくことも必要であろうが、環境・アメニティをはじめ生活の質全体の改善に向けて、より長期的な視点から、市民にとって安心して住みつづけることができる“持続可能な都市”づくりを進めていくことが大切である。

 中心市街地活性化に向けたまちづくりの中でも、公共交通の役割は大きい。現在全国各地で進められている中心市街地活性化基本計画をみるとその重要性がわかる(文献2)。全国179市町村(180地区)の計画を分析した結果では、活性化の取り組みでみて、一番多いのはまちづくり会社TMO(167地区)、次いで街並み・景観整備(160地区)であるが、交通関係では歩きやすい環境の整備(156地区)が第3位、駐車場・駐車場案内システムの整備(143地区)が第7位、そして幹線道路等の整備(136地区)となっている。中心市街地の衰退が問題となっている地方都市では自動車によるアクセスを重視した施策が第1に考えられ、優先的な位置づけがされている例が多いが、公共交通についてもその利便性向上を上げるものが121地区(67%)と比較的多く、交通ターミナルの整備も90地区(50%)で取り上げられている。

 公共交通関連施策の内容をみると、鉄道やバスへのパーク・アンド・ライド、シャトルバスの運行、バス専用レーンなどの走行環境の改善、立体交差事業、新駅の設定など、中心市街地へのアクセス改善を目指すものと中心市街地内での公共交通の利便性を改善するために、自由通路、駐輪場を含む駅前広場、バスターミナル、等の交通ターミナル整備、LRTの導入、コミュニティバス・循環バスの運行などサービスの改善、そして交通バリアフリー化が上げられている。

 中心市街地活性化において、交通関連施策の重要性は、海外の経験でも指摘されており、英国のタウンマネジメントの基本戦略においては“4つのA”と呼ばれる要素のひとつとして交通が「アクセシビリティ」としてあげられている(文献3)。これは徒歩、自転車、公共交通、車といった多様な交通手段で容易に到達でき、また中心地の中を自由に回遊できるということとしている。具体的な施策メニューとしては、次の7項目を基本原則として、それぞれの都市に合った活性化戦略を検討すべきであるとしている。

  ・ 歓迎の意を表わす都市への出入り口、玄関をつくる
  ・ 適切な駐車場を整備する
  ・ 公共交通を改善し魅力的な選択肢とする
  ・ 質の高い街路デザインを進める
  ・ 治安のよさを実感できるようにする
  ・ 都市の持つ主要な魅力を維持する
  ・ 店舗だけでなく、芸術・文化・娯楽、サービス、業務、住宅など多様な機能を集積させる

 これらの海外の経験をみると、交通関連分野では一般に、通過交通についてバイパスや都心部を迂回する内環状道路を整備し、都心方向への放射状幹線道路はバスレーンを設置し、郊外部でパーク・アンド・ライド用駐車場を整備して、都心への公共交通アクセスを確保して自動車交通の抑制をはかっている。都心部については、歩行者空間を整備し、公共交通についてのみ通行を許可するトランジットモールを設定したりなどの面的速度規制(時速30km)「ゾーン30」、狭さくとハンプの設置などにより都心部の交通静穏化を進めるなど、総合的な施策により歩行者を優先した交通環境整備を行っている。さらに、これらの具体的な計画、設計にあたっては地域の景観、街並みや歴史にマッチしたデザインや材料の使用が重視されている。また、アーバントレイルといった魅力的なスポットを巡る推奨歩行ルートの設定や都市と交通全般の情報と案内を行うインフォメーション・センターが設置され、ビジターへの対応が進んでいる。

 わが国で今後検討すべき交通施策としては、ハードな施設整備と合わせて、その整備・運営に関わる仕組みとサービス改善に向けたソフト面の施策が重要である。全体的な交通対策は当然として、公共交通分野でも市町村の役割は大きいが、県、国との連携、そして何よりも公共交通事業者や地元コミュニティとの協働、そしてまちづくりの総合的政策の中に位置づけて推進することが必要であろう。

5.魅力的な公共交通の事例

 上述したように市町村における公共交通の役割は大きいものの、自立採算性を原則とするわが国では、モータリゼーションと共にバスや鉄道のサービスは低下する一方で、不便で高く、遅く、信頼性も低い交通手段としてみなされ、大都市を除きその利用は減少する一方であった。90年代になってこのような公共交通サービスのイメージを一変させるような海外事例が日本に紹介され、また、わが国でも独自の工夫、展開が始まっている。

 代表的な例は、欧米諸都市での“路面電車のルネッサンス”であり、新しい近代的な路面電車LRT、ライトレールの導入である(文献4)。フランスのストラスブールに導入されたノンステップで斬新なデザインの車両が都心の歩行者地区(トランジットモール)を通る姿は、未来の都市交通システムを予感させるものとして多くの人々に強く訴えかけるものであった。MAXと呼ばれるLRTを軸に公共交通依存型開発を進める米国のポートランド、在来鉄道への直通運転をはかったドイツのカールスルーエなど、技術面だけでなく都市の基幹的交通システムとして都市計画、まちづくりの一環として導入されている点が注目されている。

 LRTは主として道路上の専用軌道を走行する低コストで高性能の中量輸送機関という特性をもつ新交通システムであり、わが国の在来の路面電車とは別物である。現在、ノンステップ車両が海外より輸入されて熊本や広島で使用されているが、車両のみでシステムとしてのLRT化は現行の法制度の下では不可能な状況にある。現在、全国各地でLRT導入の関心が高まっており、法改正を含むLRT導入の仕組みづくりは再編後の国土交通省が取り組むべき最初の課題の一つとして、期待される。

 公共交通に関連する革新的技術としては、さらにノンステップバス、CNGバスなどの低公害バス、大型連接バスなどの車両関係、トランジットモール、ガイドウェイバス、高度情報技術を活用した公共交通優先システムPTPSなどのインフラを含む運行システム関係、そしてリアルタイム交通情報提供システム、非接触スマートカード、さらには環境定期券など、ハード、ソフトの多様な展開がみられる。特に、ITS(インテリジェント交通システム、高度道路交通システム)関連の進歩は著しく、公共交通の運行管理の効率化が進んでおり、リアルタイムでのデマンド応答型公共交通サービスが発展すると考えられる。例えば、バスも従来のデマンド運行は、要求があれば一時的に固定路線から離れて特定のバス停での乗降を認めるといった単純な形から一定地区においては電話や主要施設に置かれた情報端末での予約により需要に応じてルートを変更して病院、官公庁、ホテルなどの主要施設や街角に設定されたバス停で乗降を認めるサービスの実証実験「中村まちバス」が高知県中村市で行われており、タクシーに近いきめ細かいバスサービスも可能となっている。また、川越市で行われた実験では交通渋滞などにより到着時間が乱れやすい状況に対し「あと5分で来ます」といったバス停での到着予測情報をi‐modeで予約者に知らせ、バスが来るまで近くで買物などの用事を済ませるといったサービスも好評を得ている。このようなリアルタイム情報を活用したデマンド応答型サービスは、バスへの信頼性の回復に有効であり、また需要の少ない地域で効率的にきめ細かいサービスを提供できるものとして注目される。

 このような新しい個別要素技術を活用したサービスの改善のほかに、在来の技術をベースに地域に合った新しい公共交通サービスを開拓した成功例が、1995年11月から始まった武蔵野市のムーバスである。自治体主導で交通不便地域の狭い街路の中に、小型ミニバスを用いて、停留所間隔を200m程度と短く、ワンコイン100円というわかり易く安い均一運賃で、15分間隔で運行するという新しいコンセプトを導入したムーバスは、その後全国のコミュニティバスの基本形として広く受け入れられていった。1周4.2km、25分で巡回するムーバス1号路線(吉祥寺東循環)は、買物に便利な駅と住宅地を結ぶ生活路線であり、高齢者にも乗降しやすい補助ステップをつけたムーバスの利用は平均1便当たり26人と多く、経営的にも大成功である。市はその後、2号路線(吉祥寺北西循環、延長5.2km、1周34分)を1998年3月に開設し、1便当たり31人と好評を得ている。さらに、ごく最近2000年11月には武蔵境駅南口にも3号線(東循環3.2km、西循環3.6km)を開設している。

 市街地内の主要施設や観光拠点等を循環する路線などのコミュニティバスは、在来の路線バスを補う公共交通サービスとして全国的に急速に導入されており、2000年4月で全国77ヶ所に達している。100円バスといった大型での均一料金で低廉で利用者に分かり易いサービスは、その後一部のバス事業にも採用されており、博多駅を含む福岡市中心部では新設の循環バスだけでなく、既存の路線バス全部についても域内100円として好評で新規利用者の開拓に成功している。また、東京の渋谷駅周辺では、全員が女性運転者で話題を集めたサービスが民間事業者(東急トランセ)により導入されており、小型バスによるデマンド運行、非接触スマートカードの導入、低廉な運賃といったサービス面でも多くの工夫を取り入れて、営業的にも成功している。このように路線バスの規制緩和を目前に、バス事業者による新しいサービスの開拓が積極的に進められており、バスに対するイメージの改善に貢献している(文献5)。

 これらの新しいバスサービスの開拓は、比較的需要の多い都市部であり、地方の市町村ではミニマムの生活交通の確保に向けてその運行、経営面で多くの創意工夫が始まっている。廃止代替バスに関わる支援、代替措置で、自治体などによる自主運行、広域連携によるバス運行、スクールバス・福祉バス等との連携、住民負担によるバス運行、乗合タクシーの利用などがその例である。これらの事例は筆者も参加した国土庁の調査にまとめられている(文献6)が、表1にその一部をまとめているので参照されたい。

 地域のバスを支える新しい事例として注目されるのが、豊田市の「ふれあいバス」である。自動車都市で有名な豊田市南西部で知立市に隣接する高岡地区では、民間路線バスの廃止により公共交通空白地域になることに対して、住民グループが1997年には「堤フォーラム」を設立して対応を検討し始めた。その後、市も加わり周辺地区の住民と共に検討を重ねて、2000年9月から試験運行、10月から本格運行を開始したのが、生活交通モデル運行事業として“地域が育てる交通手段”をキャッチフレーズにした「ふれあいバス」である。その特徴は、「空気を乗せて走るバス」には支援しないという市の基本姿勢の下に、地域で貸し切る会員制を導入して、世帯は会員として年間定期券(24,000円)を購入すれば利用する世帯人数分の定期券がもらえるという形として点である。また、試行的に会員以外の人も1回200円で利用できるとしたことも注目される。

 運営の仕組みとしては、地域が運営協議会を設立して会員の拡大、サービスの改善に必要な調査、バス停周辺の維持・管理などを行い、市は車両償却費を含む運行経費の一部を補助し、既存バスおよび新たに参加するタクシーなどの4事業者は豊田市生活交通運行事業者協会を設立し、車両を調達して実際の運行を行うというものである。このため、地域住民に対するアンケートなどに基づいた路線、サービス内容を設定して、運営協議会、運行事業者協会、市との3者の間で運行協定を結んでいる。ふれあいバスの運行は開始されたばかりであるが、地域に立地する企業や企業の寮・社宅での需要に対応した住民以外の会員の受け入れ、3ヶ月など短期間の定期券の販売などが今後の調整事項となっている。いずれにしても、規制緩和後の自治体の対応に向けた先駆的事例と言えよう。

6.公共交通のための新しい仕組み

 今後、自治体は市民のミニマムのモビリティ確保、中心市街地の活性化、そして自動車交通の抑制と都市環境改善など地域全体の視点から公共交通の整備を進めていく必要がある。そのためには、自治体が主体的に総合的交通計画・政策の一環として、道路・駐車場、徒歩・自転車交通を含めた一体的なマルチモーダル交通システムの中に公共交通を位置付けて対応していく必要がある。その場合、通勤圏や日常生活県は広域的に拡がっていることから、隣接自治体と連携した都市圏レベルでのアプローチが重要である。

 これらに関しては、規制緩和後の地域バスの確保については、非採算路線についての入札制、採算路線についての民間バス事業者との“バスの品質契約”(表2)とその地方交通計画への組み入れなどを進める英国の事例、公共交通整備のための財源確保について事業所交通税を導入したフランスの事例など、モータリゼーション先進諸国での公共交通整備の経験に学ぶべき点が多い(文献7)。

 いずれにしても、これから日本の市町村は、公共交通をまちづくりの主要な要素として認識し、その整備改善に本格的に取り組むべき時代になっている。国、県、交通事業者はもちろん、住民、商工業者など広範な地元関係者を巻き込んで、協働して対応していくことが求められている。

図表

表1 自治体等による地域バスの先進事例

1.広域連携によるバス運行 代表的事例
・代表・関連自治体の協力(協議会等)
・運行は路線バス、タクシー会社等に委託、欠損補助等
青森県津軽地域(28市町村)、群馬県多野藤岡地域(6市町村)、島根県安来市(1市2町、一部事務組合方式)、鳥取県若桜町(4町、スクールバス、福祉バスとの一元化)、愛知県蒲郡市(6市町、福祉バス)、岐阜県八幡町(3町村)
2.自治体等による自主運行 ・一部、無料、ワンコイン(100円)均一等の低料金で、商店街活性化、福祉等多目的
・自治体、商工団体、観光団体が主体で運行
(1) 循環バス
・市内、病院等主要施設、商店街を循環
静岡県豊田町(町内一円)、青森県黒石市、岐阜県高富町
(2)周辺部交通不便地区へのサービス
・中心市街地へのアクセス確保
岩手県水沢市(福祉型)、山形県新庄市(商工会議所、無料、休日運行)、青森県五所川原市(商工会議所、商店街の負担、100円バス)、山形県酒田市
(3)既成市街地内交通不便地区でのサービス
・駅、中心商店街とのアクセス
東京都武蔵野市(ムーバス、3路線ループ運行)、金沢市(ふらっとバス、2路線、小型ノンステップバス、一部アーケード内走行で日本初のトランジットモール型運行)
3.異分野との連携による機能統合
(1)企業・福祉・一般バスの統合 岩手県東山町(スクールバスも検討中)
(2)スクールバス・患者輸送バス・路線バスの統合 山梨県中富町(町営バス)、北海道穂別町(町内総合交通ネットワーク「ふれあいバス」)、岩手県大東町
(3)スクールバスと路線バスの統合 長野県川上村(村営バス)、岐阜県串原村、鳥取県日南町
(4)スクールバスの間合利用(乗合バスに) 奈良県十津川村(奈良交通との連携)、岐阜県八幡町、静岡県豊岡村、福井県勝山市(福祉バスに)
(5)路線バスの間合利用(福祉バスに) 大分県安心院町(通院用)、兵庫県大東町(曜日による併用)、新潟県能生町
4.住民負担によるバス運行
・住民主導による運行(自治会、協議会等が主導で自治体が補助) 山形県南陽市(沖郷市民バス、冬期運行市民バス)、宮城県石巻市、香川県観音寺市(タクシー会社と契約)、青森県鰺ヶ沢町(住民全世帯負担による運行確保)
・住民、事業者、自治体による運行 愛知県豊田市(世帯の会員参加、3者協定)
注:国土庁(文献6)、秋山・中村編著(文献5、特に鈴木文彦著第4章)等を基に作成。なお、バス事業者単独による独自の工夫事例は含めていない。

表2 英国のバス品質協定(バス・クオリティ・パートナーシップ)

定 義 民間バス事業者(1〜数社)と自治体等公的機関との間で、協定を結び、特定地域のバスサービス改善に向けて協働する仕組み。
内 容 第1段階 個別バス優先対策における協働
第2段階 特定ルート(回廊)での協働(新車投入と優先化)
第3段階 地域の全体政策での協働(政府への助成申請TPPのパッケージアプローチへの組み入れ)
分 担 自治体 バスレーン(全面カラー舗装“赤じゅうたん”、ビデオ監視など)、優先信号、突き出し型バス停、バスゲートなどの優先措置;リアルタイム・バス情報システム;バス停(シェルター)改善;P&R施設;利用促進キャンペーン・時刻表・ルート図など広報活動
バス事業者 新車両の購入投入(低床など)、サービス(増便など)改善、障害者対応運転手教育
費 用 自治体 3000〜4000万円/路線
バス事業者 500〜800万円
効 果 多様 ・低コストのインフラ改善(優先等)のみ + 5%乗客増加
・在来型総合的路線改善等   +20%乗客増加
・専用レーンと大幅改善(ガイドウェイ・バス等) +40%乗客増加
出所:Quality Partnerships in the Bus Industry: A Survey and Review, TAS 1997.9

参考文献

1.秋山哲男、三星明宏編、『講座 高齢社会の技術6 移動と交通』日本評論社、1996年
2.長崎卓、「シリーズ 中心市街地活性化 提出された基本計画の特徴について」新都市、1999年12月号
3.Department of the Environment, VITAL AND VIABLE TOWN CENTRES: MEETING THE CHALLENGE, HMSO, 1994
4.太田勝敏、「我が国におけるLRTへの期待と課題」、JRガゼット、2000年10月号
5.秋山哲男、中村文彦編著、『バスはよみがえる』日本評論社、2000年
6.国土庁計画・調査局総合交通課、『PPG地域交通ガイダンス Vol.5 中山間地域における小都市と周辺地域を結ぶ交通施策』2000年7月
7.太田勝敏、「都市の公共交通システムの整備政策に関する研究」日交研シリーズA-270(日本交通政策研究会)2000年3月


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